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夢見る竜とゴールデンウィーク編1厄日の出会い

本日よりGW編です。やっとテンプレートが変更できます……。でも話の季節はまだ五月。コツコツ書いてゆきまする~。
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私の日常 夢見る竜とGW編1

 張り紙が一枚張られた、小さな店の扉をしばらく眺めてから、私はその場を後にした。
 突然の時間の空白に、少し戸惑う。
 ぼんやりと奇妙な開放感を抱えて、あてもなく歩いていると、ふもとの街では一番大きなショッピングモールが目に入ってくる。セールの内容や、催し物の案内が書かれた垂れ幕が鮮やかにひるがえる。
 絵画展をやっているのか。その画家の名前に覚えはなかったけれど、私の足はすでにそちらへ向かっていた。

 平日のお昼前の時間帯の為か、客足は少ない。販売員さん達のいつ尽きるとも知れないセールストークを避けるようにエスカレーターを上がっていくと、目的の会場へ辿り着く。
 少し高いと感じたチケット代は、中に入った途端、破格の良心設定に変わった。
 色彩が溢れる。描かれた空気が体を浸透してゆく。
 日々、零れ落ちる命のかけらでざらついた体に、新しい静かに光るかけらが丁寧に並べられていく。滑らかに水気を帯びて、元の形へと戻っていく。
 何て気持ちのいい絵。風景画の括りに入れるのもためらわれる。世界の一部をそのまま持ってきたかのような細密さと生気に滲む。それが絵であることも忘れてしまう。
 動いているようで……。
「…………」
 動いた?
 木々の生い茂る薄暗い景色の奥から、微かに葉を揺らして、何かが動く気配がする。
 風の揺れ方じゃない。生き物が通るときの揺れ。
 据えつけられた革張りのスツールから腰を上げ、正面の絵に近付く。
 そうだ。そもそもこれは絵なんだ。
 そんな絵の描き方をする子を、私はひとり知っている。
「職人の目だな」
 不意にした声は、低く静かだった。肩に置かれた大きな手が、ぐいと私の体を絵から押し遠ざける。すぐ横を通り過ぎるその人を見上げると、猛禽類のような目が感情のこもらぬまま見下ろしていた。
「鼻の脂をつけるなよ」
 なでつけた黒髪の毛先が、革のジャケットの色に紛れて人影そのもののシルエットになる。
 あの人、今、絵から出てきた……。
 会場を見回しても、絵に見とれては溜息をつく、数人の客の姿しかいない。
 誰だったんだろう。
 職人さんみたいな手の人だった。
 懐中時計を取り出して、時間を確認する。繋がれた鎖がしゃらしゃらと心地好い音をたてた。
 さくら君の騒動が終わった後、クラインさんから記憶操作の代替案と一緒に渡されたもの。本当に電波障害を防ぐアンテナかどうかは謎だけど。
 この色彩の空間からは立ち去りがたいけれど、そろそろ夕飯の食材でも買って帰ろうかな。
 それともその前に本屋をちょっと覗いてからにしようか。
 とりとめのないことをあれこれ考えていたせいだろうか、会場を出た途端、誰かとぶつかりそうになった。
「危ないだろう、君!」
 横柄な一言に乱暴な一押しがついて、私の体はバランスを崩したまま、廊下にひっくり返った。鞄の中身が撒き散らされる。
「大丈夫でしたか!?」「お怪我は?」「これだから最近の若者は!」
 今日は厄日かなあ……。
 私を突き飛ばしたことなどお構い無しに、その人達はよってたかって、ぶつかりそうになった誰かを心配している。普段ならえらそうにふんぞり返っているような、背広姿のおじさん達。
 ああ、誰かの取り巻きさんだな。ほっとこう。構うだけ時間の無駄だ。
 それにしても、今ここにさくら君がいなくて本当に良かった……。家での生活には少しずつ馴染んできたとはいえ、基本的に思考回路が刃傷沙汰だもんだから、制止するのも命がけなのだ……。
「お待たせしてすみません、星庵さん」
 散らかった荷物をまとめていると、聞き覚えの無い声で呼ばれる。
 まだ変声期前のその声は、大人びてどこかぞくりと肌を粟立たせる。
 あの絵を見たあとだからだろうか。
 微笑みかけるその表情は本当に形だけで。
 冷え冷えとした幼い少年の瞳が、ただ動く物でも見るように、私の姿を捉えている。
 だ、誰かとお間違えじゃないでしょうか……。 

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