宇宙船と日記編13マヨネーズだめ?
あらすじ:アンケートを書き終えて地球に帰ろうとしていた星庵心は、忘れ物の新聞を取りに部屋へ戻ったが、そこでクラインがいつの間にか心の新聞を読んでいた。果たして返してもらえるのか?
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私の日常 宇宙船と日記編13
「……おや」
目を瞬かせると、クラインさんはすぐに丁寧な笑顔を浮かべて姿勢を整える。部屋の入り口にいる私が動かないのを見て、ゆったりと近付いてくる。
「如何なさいましたか」
「あの、忘れ物を」
「ああ、それは残念」
いたずらっぽい眼差しで、クラインさんはうやうやしく、新聞を畳み始めた。
「現地の方から頂いたもののリストから外しておきましょう」
どうやら、新聞の持ち主が私だと覚えていたらしい。
それにしても、この部屋に残っている飲みかけのペットボトルとか、雑誌とか、文庫本とか、もろもろのゴミは全部現地の方からの頂き物ってことになるのかしら。ちょっと恥ずかしい。
「現地の品は我々にとっては貴重な研究対象ですからね。それに、あなたの……」
思わせぶりな沈黙。何でしょう。
わたくし、只今、宇宙人のクラインさんにえらく見つめられております。
「……そんな歯医者の前の子供みたいな顔をなさらなくとも」
ふっと、甘い笑みを零す。そういうクラインさんは、そんな子供を待ち受ける歯医者さんみたいな顔をしてるんだけど。
「不勉強でして、咄嗟に言葉が出てこなかったのですよ」
「はあ」
「何でしたか、説明の前に食されていたでしょう。あの、ひからびた海洋生物……」
すっごい不味そうだ~。
「スルメのことですか?」
「そうそう、スルメ。あれが気になりまして、印象に残っておりました。美味しいものなのですか?」
「おいしいですよ~。マヨネーズをつけるとまたいい感じで……」
「マヨネーズ、ですか?」
マヨネーズ、知ってるの?味覚的に許されないものでもあるのか、クラインさんは真剣な表情で呟いている。
そ、そのうちご飯に豆をまぜるなとか、食文化について熱く語られたらどうしよう。私、豆ご飯好きなんです。炊き込みご飯も、栗ご飯も、でも普段は発芽玄米と押麦なんですけど……って、いや、そうじゃなくて。
「じゃあ、私は戻りますので、これで」
言った、その不意を突くように、さっきより一歩近くクラインさんがいた。
「それでは、新聞を隠した意味がありません」
頭の上から声がする。すぐそばで聞こえるのに、とても遠く感じる。
どうしよう、やっぱり戻るんじゃなかった。
とっても面倒臭いことを言われそうな気がする。
「あー、どうしてもというなら、さしあげますけど」
「そうですか。いえ、そういう話ではなく」
「違うんですか」
「お願いですからとぼけないで下さい」
とぼけてなかったんだけどな~。
「別に難しい話をしようというわけではないのです」
やっぱり、面倒臭い話をする気だ。
「簡単なお願いです」
クラインさんは畳んだ新聞を脇に挟んだまま腕を組んだ。帰るから返してほしいなあ……。
「アンテナを持っていてもらいたいのですよ」
その時私が想像したのは、でっかいアンテナを背負って歩く、今にも倒れそうな自分の姿だった。
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